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第11章 桜を見に行こう 5/7

last update Last Updated: 2025-05-19 18:00:57

 深雪〈みゆき〉の隣に弥生〈やよい〉と菜々美〈ななみ〉が座り、いつの間にか三人で酒盛りが始まっていた。

「深雪さんって本当、お強いですね」

「いやいや菜々美くん、君もなかなかいける口だね」

「よく父に付き合わされてましたので」

「ほほう、やはり……こんなところに同志がいたとは」

「弥生さんも?」

「はいであります。私めも父に鍛えられた口で。未成年に何を鍛えさせてるんだって話ですが」

「私は日本酒のほうが好きなんです。今日も持ってきたんですよ」

「おおっ、これはまた上物を」

「私にももらえるかい」

「どうぞ。これ、田舎の地酒なんですよ。お母さんがお正月に送ってくれた物なんです」

「娘に日本酒のお年玉とは、いい母親を持ったね」

「そ、そうでしょうか」

「そうですとも菜々美殿。まあ、かくいう私の親もそんな感じで、正月にはいつも地酒と共に手紙が入ってる訳ですが。『彼氏出来たか』と」

「……私もですよ」

「あれは辛い年賀状です……」

「弥生さん、20歳でそれでしょ? 私なんかどうするんですか。『今年こそ孫の顔を見れるのでしょうか』なんて年賀状がきたら」

「君たちは、少年抜きでも十分面白いな」

「深雪さん、なんでそこで笑うんですか。ひどいですよ」

「いやすまない。君たちがあまりに可愛いものでね」

「可愛いって深雪さん、私とそんなに歳変わらないじゃないですか」

「そうなんだけどね。でも菜々美くん、君は若いよ。歳をあと3つ4つ下げて申告しても、きっと大丈夫だ」

「それって褒められてます?」

「勿論」

「ならいいです」

 そう言って、菜々美も笑って日本酒を飲む。

「ささっ、深雪殿も飲んでください。今宵は飲み明かしましょうぞ」

「すまんね、弥生くん」

 * 

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